生前の相続対策や実際の相続の場面において、「争いはしないように」と考える方は多いものです。
『論語と算盤』第一章「処世と信条」の中で、渋沢栄一は、「争いは決して排斥すべきものでなく、処世の上にも甚だ必要のものであろうかと信ずるものである」と述べています。
一般に「争い」という言葉には否定的な印象がありますが、ここでいう争いとは感情的な対立ではなく、より良い結論を導くための議論を指しているものと考えられます。
親が「決めておいたから」と結論を示し、子が「任せる」と本音を飲み込みながら進んでいくこともあるでしょう。
しかし、十分な議論がなされないまま整えられた形は、後になって疑問や不満を残すことがあります。
遺す側は考えや背景を丁寧に説明し、後継者や相続人は遠慮せずに自分の意思や将来像を語る。
その過程を経ることで、はじめて次世代が主体的に判断できる土台が整います。
ときには意見が食い違うこともあるでしょう。
しかし、その違いを避けるのではなく、議論を重ねることで、それぞれが自分の考えを整理し、自らの責任で選択する力が育まれます。
相続は、単に財産を分けて引き継げば良いというものではありません。
次の世代が、自分の考えで行動できる環境を整えることでもあります。
争いを恐れて沈黙するのではなく、建設的に議論する。
その姿勢をもって、将来に向けた誠実な準備をしたいものです。
(2026.3.4)
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